『SLAM DUNK』には、バスケットボール以外にも強烈な存在感を持つ人物がいる。
その一人が、湘北高校柔道部の青田龍彦だ。
青田が狙ったのは桜木花道。
驚異的な身体能力を持つ桜木を見て、柔道部へ勧誘しようとする。
しかし桜木はバスケットボール部に入っている。
しかも、桜木がバスケを始めた大きなきっかけには赤木晴子の存在がある。
普通に「柔道をやらないか」と誘っただけでは動きそうにない。
では、生成AIに、
「桜木花道を柔道部へ入部させるため、青田龍彦の勧誘作戦を考えてください」
という課題を与えたら、どんな作戦を考えるのだろうか。
今回はAI Analysis Labの「プロンプト実験」として考えてみたい。
なぜ青田は桜木を欲しがるのか
まずAIに勧誘方法を考えさせる前に、桜木という人物を整理する必要がある。
桜木は普通の高校生とはかなり違う。
圧倒的な跳躍力。
パワー。
スピード。
スタミナ。
そして短期間で新しい動きを身につけていく吸収力。
バスケットボール初心者でありながら、その身体能力だけでも試合に影響を与える。
これを柔道側から見ればどうだろう。
青田が欲しくなるのも理解できる。
体格とパワーだけではない。
桜木には「勝ちたい」という気持ちも強い。
勝負事になると簡単には引かない。
柔道選手として育成できれば、かなり面白い素材になるはずだ。
問題は能力ではない。
どうやって本人を柔道部へ連れてくるか。
ここが今回のAIへの課題になる。
最初のプロンプトを作る
まず、かなり単純なプロンプトを考えてみる。
「あなたは湘北高校柔道部の青田龍彦です。身体能力の高い桜木花道を柔道部へ勧誘してください。桜木が入部したくなる説得方法を5つ考えてください」
これだけでもAIは答えを作れるだろう。
例えば、
「柔道なら身体能力を最大限生かせる」
「全国大会を目指せる」
「柔道でもスターになれる」
「バスケより早く活躍できる可能性がある」
「一度だけ柔道を体験してもらう」
といった作戦が考えられる。
どれも普通のスポーツ勧誘なら悪くない。
しかし桜木相手では、何かが足りない。
桜木は合理性だけでは動かない
AIが最初に失敗しそうなのがここだ。
桜木に、
「君の身体能力なら柔道で成功できます」
と説明する。
理屈としては正しい。
しかし桜木が、
「なるほど。それなら柔道を始めよう」
と冷静に判断する姿は想像しにくい。
桜木を動かしているものは、合理的な損得だけではない。
晴子への想い。
流川への対抗心。
自分が天才だという自負。
仲間との関係。
試合に勝ったときの興奮。
こうした感情が複雑に絡んでいる。
つまりAIに青田の作戦を考えさせるなら、単純な「優秀な高校生を部活へ勧誘する」という設定では不十分だ。
桜木の性格までプロンプトに入れる必要がある。
改良版プロンプト
そこで条件を追加する。
「桜木花道は自信家で、負けず嫌いで、身体能力が非常に高い。一方、理屈だけで説得するのは難しい。現在はバスケットボール部に所属しており、バスケを始めるきっかけになった赤木晴子への想いも強い。青田龍彦として、強引すぎず、桜木本人が柔道に興味を持つ勧誘作戦を考えてください」
かなり具体的になった。
AIは単なる柔道のメリット説明ではなく、桜木の心理を利用した作戦を考える必要がある。
ここからが面白い。
作戦1「勝負を仕掛ける」
最も桜木らしい攻略法としてAIが考えそうなのが、勝負だ。
青田が、
「柔道なら俺には勝てない」
という形で挑発する。
負けず嫌いな桜木なら反応する可能性がある。
最初から、
「柔道部へ入れ」
と言わない。
まず柔道場へ来させる。
一度勝負させる。
そこで桜木自身に柔道の面白さを経験させる。
マーケティング的に言えば、いきなり契約を求めず「無料体験」へ誘導するような方法だ。
これはかなり合理的だ。
ただし問題もある。
桜木が勝負だけして、
「俺はやっぱり天才だ!」
と言ってバスケ部へ帰る可能性がある。
体験させるところまでは成功しても、入部にはつながらないかもしれない。
作戦2「全国一を狙える」と伝える
次は桜木の自尊心を刺激する方法だ。
「お前なら柔道で全国一になれる」
と青田が伝える。
普通の高校生なら大げさな勧誘に聞こえる。
しかし桜木は自分を「天才」と考えている。
全国一。
最強。
天才。
こうした言葉との相性はいい。
「全国一の柔道家になれるぞ」
と言われれば、少なくとも興味を持つ可能性はある。
AIとしては有力な作戦と判定するかもしれない。
しかし、ここにも大きな壁がある。
桜木はすでにバスケットボールの世界で、自分が成長している感覚を得ている。
「別競技なら成功できる」という未来より、今いる場所で勝つことの方が重要になっていく。
作戦3「柔道はバスケにも役立つ」と誘う
そこでAIなら、少し違う入口を考えるかもしれない。
柔道部へ完全移籍させようとしない。
「柔道の練習をすれば、体幹やバランス感覚が鍛えられてバスケにも役立つかもしれない」
という誘い方だ。
これは面白い。
桜木にバスケを捨てさせる必要がないからだ。
まず柔道を経験させる。
柔道の面白さを知ってもらう。
その後で勧誘する。
青田にとっては遠回りだが、AI的には成功確率を上げる方法として提示しそうだ。
ただし青田本人がそこまで気長に待てるかは別問題である。
作戦4「晴子を利用しない」
ここは重要だ。
青田と桜木の関係を考えると、晴子の存在を利用する誘惑がある。
桜木にとって晴子は大きな存在だからだ。
しかしAIに「長期的に成功する勧誘」を求めた場合、晴子を道具のように利用する方法は評価を下げるべきだろう。
仮に一時的に桜木を柔道場へ連れて来られても、本人が騙されたと感じれば逆効果になる。
本人が柔道そのものに興味を持たなければ続かない。
AIに勧誘を考えさせる面白さは、単純に「どうすれば相手を動かせるか」ではなく、
「どうすれば本人が納得して選択できるか」
という条件まで設定できるところにある。
AIが出しそうな最終案
ここまで条件を加えた場合、AIの最終的な作戦はおそらく次のようになる。
まず青田が桜木の身体能力を真正面から評価する。
次に勝負を提案する。
桜木を柔道場へ連れてくる。
実際に柔道を経験させる。
そこで、
「お前なら全国を狙える」
と伝える。
ただし、その場でバスケを辞めるよう迫らない。
選択は桜木に任せる。
かなり大人しい青田になってしまった。
だが、成功確率だけ考えれば、強引な勧誘より合理的なのかもしれない。
それでも桜木はバスケを選ぶ?
では、このAI作戦を完璧に実行したら桜木は柔道部へ移るだろうか。
個人的には、それでも可能性は高くないと思う。
物語が進むほど、桜木にとってバスケットボールは「晴子に好かれるために始めたスポーツ」だけではなくなっていくからだ。
赤木。
宮城。
三井。
木暮。
安西先生。
そして最大のライバルである流川。
試合を重ねるたび、桜木にはバスケを続ける理由が増えていく。
AIがどれほど完璧な勧誘文を作っても、この積み重ねを消すことはできない。
プロンプトを変えると答えも変わる
今回の実験で一番面白いのは、青田の勧誘作戦そのものではない。
AIへ与える条件によって答えが変わることだ。
「桜木を柔道部へ勧誘して」
だけなら一般的な勧誘方法になる。
「桜木の性格を考慮して」
と追加すれば心理戦になる。
さらに、
「強制しない」
「晴子を利用しない」
「本人が納得する」
「バスケへの気持ちも尊重する」
と条件を追加すると、まったく違う作戦になる。
つまりAI分析では、答えを見るだけでなく、
どんな条件を与えたら、どんな答えに変化するのか
を見ること自体が実験になる。
青田×AIで見えてきたこと
青田龍彦がAIを使えたとしても、桜木花道を柔道部へ入れるのは簡単ではない。
AIは桜木の身体能力、性格、動機などを整理し、合理的な勧誘作戦を作ることはできる。
しかし人間は合理性だけでは動かない。
友情。
憧れ。
ライバル。
積み重ねた時間。
自分でも説明できない感情。
それらまで含めて「今の場所にいたい」と思うことがある。
だから今回のプロンプト実験で出た結論は、
最高の勧誘とは、相手を言葉で動かすことではなく、本人が選びたくなる選択肢を見せること
なのかもしれない。
もし青田が本当にAIを持っていたら。
何十種類もの勧誘作戦を作り、桜木の反応を予測し、最も成功率の高い言葉を選んだかもしれない。
それでも最後に桜木が言う言葉は、おそらくAIにも完全には予測できない。
そんな予測不能さこそ、桜木花道という人物の面白さなのだ。


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