山王工業の強さを象徴する戦術の一つとして語りたくなるのが、コート全体を使って相手にプレッシャーをかけるオールコートプレスだ。
相手がボールを入れた瞬間からプレッシャーをかけ、自由にボールを運ばせない。
成功すれば連続してボールを奪い、一気に点差を広げることもできる。
しかし、ここで一つ疑問がある。
強力な戦術なら、最初から最後まで使えばいいのではないか?
実際にはそう単純ではない。
オールコートプレスは、相手からターンオーバーを奪ったり試合のテンポを変えたりできる一方、突破された場合には後方の人数が不足し、簡単な得点を許す危険もある。また、守る側の運動量も大きい。一般的なバスケットボール戦術としても、プレスは「高いリターンと相応のリスクを持つ戦術」と考えられている。
そこで今回は、
「山王工業がAIを使っていたら、オールコートプレスをいつ投入するのが最も得なのか?」
という仮説を考えてみたい。
※本記事は作品を題材に、現実のバスケットボール戦術とAI分析を組み合わせて考察する非公式の記事です。
AIは「成功率」ではなく「期待得点差」で判断する
AIにオールコートプレスの投入判断を任せるとする。
重要なのは、
「ボールを奪えるか?」
だけではない。
AIが見るべきなのは、その戦術を使った結果として最終的に何点得する可能性があるのかだ。
たとえばプレスを10回行い、
- 3回はボールを奪って速攻
- 4回は相手の攻撃開始を遅らせる
- 2回は普通のハーフコートディフェンスへ移行
- 1回は完全に突破されて簡単な得点を許す
という結果になるなら、十分に価値がある可能性がある。
逆に、ボールを奪う回数が多くても、突破されたときに簡単な得点を大量に許すなら期待値は下がる。
つまりAIが判断するのは、
「プレス成功率」ではなく「プレスを使った場合と使わなかった場合の期待得点差」
なのである。
最も狙いたいのは「相手が崩れ始めた瞬間」
では、いつ投入するのか。
一つの答えは、相手のボール運びが不安定になった瞬間だ。
プレスは、ボールハンドリングやパス判断に弱点があるチームほど効果を発揮しやすい。さらに相手が本来ハーフコートでじっくり攻めたいチームなら、プレスによって望まないテンポへ引き込める。
AIなら試合中のデータから、
「直近5ポゼッションでパスミスが増えた」
「ボール運びが特定の選手に集中している」
「相手ガードの判断時間が長くなっている」
「プレッシャーを受けたときドリブルが増えている」
といった変化を検出できるだろう。
ここで堂本監督の端末に、
PRESS推奨度:87%
と表示されたとする。
山王は一気にプレスへ変更する。
相手からすれば非常に嫌なタイミングだ。
すでに少し判断が乱れているところへ、さらに強烈なプレッシャーが来るからである。
「得点した直後」はかなり使いやすい
もう一つ重要なのが、自分たちが得点した直後だ。
得点後なら守備側はプレスの配置を作りやすい。
特に連続得点した直後なら面白い。
たとえば、
山王がシュートを決める。
次の守備でボールを奪う。
また得点する。
ここでさらにプレスを仕掛ける。
すると相手は、
「また奪われるかもしれない」
という心理状態になる。
プレスの価値は、実際にスティールすることだけではない。相手に時間を使わせ、普段とは違う攻撃をさせ、リズムを崩すこと自体にも意味がある。
AIなら得点差だけでなく、
相手の判断速度や攻撃開始までの時間
まで分析する。
相手の攻撃効率が落ち始めた瞬間にプレスを重ねる。
これができれば、数分間で試合そのものを壊せる可能性がある。
深津一成がいることの意味
そして山王工業を考えるうえで重要なのが深津一成だ。
プレスは単純に全員が走れば成立する戦術ではない。
誰がボールへ行くのか。
どこへ追い込むのか。
いつダブルチームへ行くのか。
突破されたら誰が戻るのか。
この判断がずれると、一気に守備が崩れる。
一般的なプレス守備でも、中央への侵入を防ぎ、サイドやコーナーへ追い込み、後方が素早くローテーションしながらリングを守ることが重要とされる。
そこでAIが深津へ、
「右サイドへ誘導」
「次のパスでトラップ」
「今回は仕掛けない」
といった情報を出せたらどうなるだろう。
深津のゲームコントロール能力とAIのリアルタイム分析が組み合わされる。
これはかなり厄介だ。
AIが作戦を決め、深津がコート上で微調整する。
そんな守備システムが完成する。
沢北栄治を疲れさせてはいけない
ただし、AIは別の問題も考える必要がある。
体力だ。
フルコートでプレッシャーをかけ続ける守備は当然ながら運動量が増える。特に前線で左右へ動き続ける選手には大きな負荷がかかる。プレス戦術では選手層やコンディションが重要になる理由だ。
山王には沢北栄治という絶対的な攻撃兵器がいる。
もし沢北まで毎回全力でプレスさせ、
守備では全力疾走、
攻撃では1対1、
また守備で全力疾走、
を繰り返したらどうなるか。
後半の重要な時間帯で攻撃力が落ちる可能性がある。
そこでAIは、
「プレスによって得られる期待得点」と「沢北の体力消耗によって失う将来の期待得点」
を比較する。
ここが短期的な戦術判断と長期的な試合設計の違いだ。
目の前で2点取れるからプレスする。
それだけではない。
第4クォーターまで含めて考えたとき、本当に得なのかを見るのである。
AIなら「ずっとプレス」は選ばないかもしれない
ここまで考えると面白い結論になる。
山王ほど強いチームでも、AIはおそらく、
常時オールコートプレス
を最適解にはしない。
なぜなら相手も学習するからだ。
何度も同じプレスを受ければ、
「ここへパスすればいい」
「この位置でダブルチームが来る」
と対応される。
プレスを突破する側には、素早いパス、ボールの逆サイドへの展開、中央の利用など複数の対抗策がある。プレスが破られれば守備側は速攻や高確率のシュートを許す危険がある。
だったらAIは逆に、
使わない時間を作る。
普通のハーフコートディフェンス。
突然プレス。
また解除。
数分後に再びプレス。
相手は常に、
「次は来るのか?」
と考えなければならない。
この不確実性そのものを武器にするのである。
最大の狙い目は「相手の疲労×焦り×弱いボール運び」
では、最終的にいつ使えば最も得なのか。
AI的に考えるなら、条件が重なった瞬間だ。
相手のガードが疲れている。
パスミスが増えている。
こちらには交代できる選手がいる。
相手がタイムアウトを使いにくい。
こちらが得点してプレスをセットできる。
そして相手が精神的に焦り始めている。
こうした条件が重なった瞬間、
プレスの期待値は一気に上昇する。
特に終盤で負けている側がターンオーバーを必要としている場合や、相手のボールハンドラー、ベンチ層に弱点がある場合は、一般論としてもフルコートプレスを使う合理性が高くなる。
AIなら試合開始前に、
「第3クォーター残り5分からプレス」
とは決めないだろう。
試合を見ながら、
最も相手が嫌がる30秒を探す。
そして、その瞬間に投入する。
山王工業の本当の怖さは「プレスを持っていること」
オールコートプレスの価値は、実際に使っている時間だけではない。
「山王はいつでもプレスを使える」
と相手に思わせることにも価値がある。
ポイントガードはボールを受ける前から周囲を見る。
インバウンドする選手も警戒する。
ベンチもプレス対策を準備する。
つまり山王は、戦術を使わなくても相手の思考リソースを消費させられる。
AIが加われば、その効果をさらに最大化できる。
AIが狙うのは、
最も派手なプレスではない。
最も長いプレスでもない。
相手の疲労、選手構成、得点差、残り時間、ターンオーバー率、ファウル数、そして試合の流れ。
それらをリアルタイムで計算し、
「今から数ポゼッションだけプレスするのが最も得」
という瞬間を探す。
山王工業のような高い個人能力を持つチームほど、この考え方は恐ろしい。
強い戦術をずっと使うのではない。
強い戦術を、最も効く瞬間だけ使う。
もし山王工業にAI戦術分析システムがあったなら、オールコートプレスは単なる必殺技ではなくなる。
それは相手の弱点が最大になった瞬間だけ作動する、勝率を動かすスイッチになるのかもしれない。


コメント